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越前・三国嶽の山中、竜神が封じ込められているという夜叉ヶ池の傍に、萩原晃と妻の百合が住んでいた。未曽有の陽照りが続いていた夏のある日、二人の住む村に一人の男が訪れた。男は山沢学円という学者で、一昨年の夏、親友が国々に伝わる不思議な物語を集めようと東京を旅立ち、そのまま行方が知れなくたったと百合に話す。その男が夫、晃と察する百合。二人の話を立ち聞きした晃は学円の前に出て、ここに落ちついた訳を語る。晃は夜叉ヶ池を見ようと谷に入り、そこで五十年間鐘をつき続けて来た老いた鐘楼守弥太兵衛に会い、鐘にまつわる不思議な話を聞いた。「昔、人と水が戦って、この里が滅びようとした時、越の大徳、泰澄が行力で竜神を夜叉ヶ池に封じ込んだ。竜神は、自分は自由を求める気持が強いのだから、鐘を作って毎昼夜三度ずつ鳴らし、決して池から出ないという約束を思いおこさせてほしいと云って水底に沈んだ」という。その日弥太兵衛は死んだ。鐘をつかないと竜が暴れだすという話に耳を貸さない村人たち。そのとき、美しい百合と知り合った晃は第二の弥太兵衛になることを決心したのだ。晃は学円を夜叉ヶ池に案内する。夜の闇に、化け物の数々が出て歌い騒り出す人間とは別の世界の夜叉ヶ池。池の主白雪姫は、剣ヶ峰、千蛇ヶ池の若旦那に想いを寄せていたが、飛び出せば村を水びたしにするため、先祖以来の人間との堅い約束に縛られていた。鐘の音さえなくなればと口借しがる姫。今にも飛び出さんと思うが、晃と百合のために思いとどまる。一方人間世界では、百合の叔父の悪神官が雨乞いのために村一番の美女百合をいけにえにするとひきつれて行った。百合は自らのどを突いて死んだ。絶望した晃は鐘をつかず、撞木の縄を切った。雷鳴がとどろき、黒雲が夜叉ヶ池を覆い、大津波がおし寄せて村は一瞬のうちに全滅した。自由になれたことを喜ぶ姫。月光がさす水底の巨鐘に、晃と百合の平和なたたずまいが見え、合掌する学円の姿も見えた。